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  • 畠中美希

平安時代の鍼灸治療

NHK大河ドラマ「光る君へ」で登場した宋の薬師、周明。ドラマの中で、鍼治療を施し、為時を不調を回復へと導くというストーリーがありました。”平安時代にも鍼灸治療ってあったの?”っと思われる方もいたのではないでしょうか?今回は、「光る君へ」の舞台、平安時代の鍼灸治療についてお伝えしていきます。


この時代の鍼灸は、現代の日本鍼灸の源流となる重要な歴史的背景を持っています。是非最後までお読みください。



平安時代の鍼灸治療の背景


平安時代(794年~1185年)は、日本において「文化」「芸術」「宗教」「政治」が大いに発展した時代です。特に中国からの影響を受けた文化や医療が浸透し、鍼灸治療もその一つとして重要な役割を果たしていました。



1. 中国医学の影響


平安時代の鍼灸治療は、中国の唐代の医学をベースにしていました。遣唐使が持ち帰った医学書や知識が、日本の貴族や医師たちの間で受け入れられ、鍼灸はその一部として広がりました。中国の伝統医学の考え方、特に陰陽五行説や経絡理論が鍼灸治療の基礎となりました。

  • 陰陽五行説: もとは古代中国の易学の考え方。「陰陽思想」では、すべての存在は相反するふたつの性質を持つものの調和から成っている、とされます。また、「五行思想」は、万物は木・火・土・金・水の5つの元素から成り立つとする考え方で、体においてもこの陰陽五行の循環とバランスにより健康が構成されているとされております。

  • 経絡理論: 気が流れる経路(経絡)とその上のポイント(経穴)に鍼を刺すことで、体内のエネルギーの流れを調整し、病気を治すと考えられています。



2. 医療制度と医師

平安時代には、天皇や貴族のために医療が提供される制度が整備されていました。宮廷内には医療を担当する官職(典薬寮)があり、ここで鍼灸師も活動していました。平安時代の中期以降、庶民にも医療が広まり始めましたが、宮廷や貴族の医療が中心であったため、鍼灸治療も上流階級が主に受けるものでした。

  • 典薬寮: 宮廷の医療や薬園を管理する機関で、医師や鍼師、薬師などが所属していました。鍼師の修業年数は 7 年間と言われております。また、まじないを唱えて物の怪 (け) などの災いをはらう「呪禁師」も典薬寮に支えておりました。


3. 宗教と医学の融合

平安時代の医学には、仏教や道教の影響も見られました。特に仏教の僧侶が医学を学び、鍼灸治療を行うこともありました。僧侶たちは、治療行為とともに、患者の心のケアや祈祷なども行い、精神的な治癒も重視していました。

鍼灸治療の具体的な方法

1. 鍼治療

  • 鍼具: 当時使用された鍼は、現代のものよりもやや太めで、金属(鉄や銅)が使われていました。また、鍼の長さや形もさまざまで、特定の病気や症状に応じて選ばれました。

  • 経穴の使用: 経穴(ツボ)の位置は、現代と同じように全身にわたり、特定の経穴に針を刺して、気の流れを調整する方法が取られました。

  • 施術法: 鍼の刺し方や深さ、角度なども病気や症状によって変えられました。

2. 灸治療

  • 灸具と材料: 灸治療には、艾(もぐさ)を用いました。もぐさは、乾燥させたヨモギの葉を使い、これを皮膚の上で燃やすことで温熱を与えました。

  • 施灸法: 直接皮膚に置いて燃やす「直接灸」と、間接的に皮膚を温める「間接灸」がありました。

  • 治療目的: 灸は、体内の冷えを取り除く、痛みを和らげる、免疫力を高めるなどの目的で使われました。

3. 複合治療

鍼灸治療は、漢方薬(薬湯、煎じ薬など)と併用されることが多く、総合的な治療が行われました。例えば、鍼で経絡の気を調整し、灸で温め、漢方薬で体内のバランスを整えるというアプローチが取られました。当時は天然痘などの疫病が大流行し、貴族も庶民も関係なく、多くの人が苦しみました。そのため、鍼師も鍼の知識と共に漢方の知識も求められておりました。




鍼灸治療の記録と文献

平安時代の鍼灸治療に関する記録や文献もいくつか残っています。これらの文献は、当時の医学知識や鍼灸治療の実践について詳しく記述しており、後世の鍼灸医学の発展に大きく寄与しました。

  • 『医心方』: 平安時代中期に成立した、丹波康頼による日本最古の医学書です。中国から伝わった医学知識を集大成したもので、鍼灸に関する多くの情報が記載されています。

  • 『三養方』: 平安時代末期に成立した薬草学の書で、鍼灸に関連する治療法も含まれています。

平安時代の鍼灸治療の特徴

①中国伝来の医学を基にした高度な技術

唐代の医学書や知識を基に、洗練された鍼灸技術が発展しました。

②貴族と宮廷中心の医療

鍼灸治療は主に貴族や宮廷のためのものであり、庶民に普及するのは後の時代となりました。また、鍼灸だけでなく、漢方薬やその他の治療法と組み合わせた総合的な医療が行われていました。

③宗教との融合

仏教や道教の影響を受け、精神的な治癒も重視されました。



平安時代の鍼灸治療は、現代の鍼灸医学の基礎を築き、多くの技術や知識が、時代が変わった令和の今も、多くの人の健康を担っております。皆さんも、ぜひ、時代を超えて愛されて続ける鍼灸治療を受けてみてはいかがでしょうか?



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